散歩道を歩いていると一人の女性に声をかけられた
いつもの散歩道を歩いていると一人の女性に声をかけられた。年の頃は40歳位か。身だしなみも綺麗なひとだった。「四条畷はどの方向ですか」と。僕はその方向を指で示し「歩いて行かれるのですか」と聞いた。
「携帯も財布も置いて出て来たので・・・」という。「四条畷のどの辺り?」と尋ねると「河内岩船」と答える彼女。僕はスマホを取り出しマップで調べた。河内岩船だと歩くと3時間30分と出た。「歩ける距離ではありませんよ」と僕。すると彼女急に泣き顔になって「主人とうまくいってなくて離婚を言われている。行く所がないと。なぜこの場所に来たのかを訪ねると「大阪市内で主人と食事をしていて喧嘩になって車の中に携帯も財布も置いて出てきた」と。「自分の親とかご主人の親とか相談できる人はいないのですか」と聞くと「どちらの親ともうまくいってないと・・・」困った僕は「では、僕が車で送るか電車賃をあげるかにします。しかし今は散歩中で持ち合わせがない。家は近くなのでここで待っていて下さい」と言ってひとまず車と財布を取りに帰った。
彼女は待っていた。車に乗せ最寄りの駅に向かった。車中、彼女は延々と話し出す。「子どもは中学生と小学生の3人。専業主婦で主人は自営業。中学2年の子どもが不登校になってしまった。その上反抗期。その原因について「ママが悪い」と主人からも子どもからも責められた。一生懸命子育てをしてきたのに・・・と。そのくせ主人は帰ってこないし朝方に帰る事も。車の走行記録も消去されているし・・スマホを見せてというと拒否される。浮気しているに違いない。話し合おうとしても話にならない。「出て行け」と言われる。子どもも育てられないのに、子どもは置いていけ」と言われる。精神的にもおかしくなりカウンセリングを受けている・・・等々。車中で1時間以上も話が止まらない。
僕は千円札を渡し「ここから電車に乗れば河内岩船に行けます」と言うと「鍵も持ってないし家に入れてもらえるかも分からない」と。「離婚するにしても無一文では何も出来ない。話し合うしかない」と説得。帰って「家に入れてもらえない時は警察に助けを求める事も助言。
彼女はお金を返すので名前と住所を聞かれたが「返してもらわなくてもいい」と断わり、車から降りてもらった。
その出来事を友人に話すと「それって詐欺ちゃうん?」と言われた。全く思いもよらなかったが、筋立てて考えて見ると、つじつまが合わない場面もある。
今考えれば詐欺の線もあるかもしれない。しかしそうであったとしても無駄なお金を使ったとは思えない。「おせっかいやきの善良なおじいさん」か「おせっかいやきのまぬけなおじいさん」か、彼女がどう感じて千円を受け取ったかは僕には分からない。どちらも僕だからどっちでもいい。